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福岡高等裁判所 昭和45年(ネ)509号 判決

昭和四五年(ネ)第五一三号事件控訴人

昭和四五年(ネ)第五〇九号事件被控訴人

一審申請人

相浦和弘

右訴訟代理人

佐伯静治

外四名

昭和四五年(ネ)第五〇九号事件控訴人

昭和四五年(ネ)第五一三号事件被控訴人

一審被申請人

三井鉱山株式会社

右代表者

倉田興人

外一名

右訴訟代理人

鎌田英次

外一一名

主文

原判決中一審申請人前田義則、同堀栄吉勝訴の部分を取り消す。

一審申請人前田義則、同堀栄吉の申請を却下する。

一審被申請人のその余の控訴を棄却する。

別紙当事者目録(一)掲記の各一審申請人らの控訴を棄却する。

一審申請人前田義則、同堀栄吉と一審被申請人との間に各生じた訴訟費用は、第一、二審を通じて右一審申請人らの各負担とし、一審申請人中川末義、同池内長吉、同蓮尾信治郎と一審被申請人との間に生じた各控訴費用は、いずれも一審被申請人の、その余の一審申請人と一審被申請人との間に生じた各控訴費用は、右一審申請人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一本件各一審申請人(以下単に申請人と略称する)らの仮処分申請の当否を判断するにつき、各申請人に共通する部分、すなわち、(一)一審被申請人(以下単に会社という)の業務内容、規模、(二)会社の経営成績と財政状態、(三)会社の経理担当者によつてなされた経営悪化の原因分析、(四)石炭協会の指定統計、石炭連盟発表の資料による三池炭鉱に稼働する鉱員の能率比較、(五)済営成績、財政状態、済営比較の結果の評価、(六)第一次および第二次企業再建案の提示に至るまでの経緯とこれをめぐる労使の交渉、(七)指名解雇の実施状況、(八)人員整理の基準、(九)三池労組の全面争議行為への突入と争議の終結ならびに争議後の状況、(一〇)三池労組の沿革と組織等、(一一)職場闘争、職場交渉と炭労および三池労組の態度、(一二)三池労組員らによつて実行された職場闘争行為に対する職組の態度、(一三)企業整備に伴う人員整理に関する一般的判断、(一四)職場闘争行為およびこれを理由とする整理解雇の適否についての一般的判断などについての当裁判所の判断は、左記のとおり付加訂正するほか、原判決の総論(原判決二七五頁の理由冒頭以下三二三頁末尾まで)における理由説示と同一であるからこれを引用する。

(一)  原判決三〇八頁下段三行目の次に左のとおり挿入する。

「支部は、中央の決定に基き業務執行に当るほか、その支部限りに関する事項については組合の統括を乱さない範囲において自主的にこれを処理することができ(組合規約五八条)、最高決議機関として支部所属の中央委員および代議員によつて構成される支部総会を、これに次ぐ決議機関として同中央委員によつて構成される支部委員会を有し、中央会議に附議する事項の予備審議およびその支部限りに関する事項を審議し(同規約二五条)、また業務執行機関として支部執行委員会があり、三池労組全組合員の直接無記名投票によつて選挙された組合役員である支部長(同規約四一条)が支部を代表し、組合長の指示に従い執行機関を統括し、支部決議機関の会議を招集する権限を有していた(同規約四三条)。

職場分会は、中央および支部の決定に基き業務執行に当るほか、その分会限りに関する事項について組合の統括を乱さない範囲において自主的にこれを処理することができ(同規約五九条)、決議機関として、その職場の組合員をもつて構成する職場会議を有し、支部総会および支部委員会に附議する事項の予備審議およびその職場かぎりに関する事項につき審議し(同規約二八条)、職場分会所属の組合員が、職場毎に委員の中から職場分会長を選出し、職場分会長は、職場分会を統括し、職場会議の議長となるとともにその職場限りに関する事項の執行の任に当つた(同規約五一条)。」

(二)  原判決三二一頁下段一一行目以下三二二頁上段二二行目まで((三)職場交渉権および三権委譲問題に関する当裁判所の一般的判断1項全部、―編注・本誌二五三号一一七頁一段一四行目から三段一九行目まで―)を次のとおり改める。

「労働組合法七条二項は、使用者に対し、その雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを義務づけているが、右団体交渉権の主体は、労働組合法にいう労働組合に限定することなく、労働者の団体たる実質を有する社団的組織体にもこれを賦与すべきものである。しかして、かかる労働者の団体は、労働者の単なる集団とは異り、独自の規約を有して一定の組織体を形成し、統一的団体意思に支配された統制ある行動をとることができ、かつ財産的基盤として構成員が拠出した資金を有し、もつて独自の活動をなす社団的組織体としての実体を有することを要求するものであつて、かかる労働組合としての実体を有するかぎり、それが単位労働組合の支部、分会であつても、当該職場組織特有の事項について、独自の団体交渉権の主体たり得べきもので、団体交渉の当事者たる資格を保有し、従つてその限りにおいて独自の団体行動権をも保有するものと解すべきである。

しかして、労働者はそれぞれ固有の団体交渉権、団体行動権を有するとはいえ、その利益を守るため統一的な労働組合に団結した以上、組合員が各自勝手気儘にこれらの権利を行使することは許されず、他の組合員との団結による組合組織を通じ、かつその組合組織力によつてこれを行使すべきものであり、労働者の集団とはいえ、社団的組織体(労働組合)としての実体を有しない労働組合の単なる下部組織にすぎない支部、分会は組合の有する団体交渉権、団体行動権と異なる独自の団体交渉権、団体行動権を有するものではない。けだし、労働組合(社団的組織体としての実体を有する労働者の団体を含む)は使用者と団体交渉をすることによつて、労働組合員の経済的地位の向上をはかることを目的とするものであり、組合か行う団体交渉の対象事項も、組合員の労働条件その他労使関係に関するものであれば、特に制限されるものでない以上、組合員の経済的利益を守るためには、労働組合が主体となつて使用者と団体交渉をすれば足りるのであつて、職場の労働者が、労働組合の組織の中にありながら、別の集団を組織し(ただし、別個の労働組合としての社団的組織体たる実体を備えるものではない)、これが組合と別異の独自の団体交渉権ひいては団体行動権の主体となることを容認することは、本来労働組合運動が大衆運動であり、職場交渉や職場の団体行動が組合員意識を高める場合があるとしても、労働組合自身にとつては一種の自壊作用であることは免れず、(なお、組合員意識を高めるために職場交渉等が有効であるとしても、かかる意識の昂揚は労働組合が日常の諸活動を通じてその実現に努めるべきものであり、かかる理由から職場集団に団体交渉権や団体行動権を賦与することを合理化することはできない。)使用者において一職場と有利な協定を結ぶなどして不当労働行為を誘発せしめるおそれがあり、他方職場集団においても集団のエゴイズムに基き、不合理な要求に固執し、組合の統一的意思を無視して使用者に協定の締結を要求するなど交渉機構を複雑化し、組合の団体交渉による労働協約と、職場集団の職場交渉による協定との間に多くの矛盾抵触が生じて無用の混乱を生ぜしめるおそれがあり、労働組合を基盤として展開される労使関係の秩序を乱す危険性が大きいからである。

しかして、前示認定のとおり、三池労組は、三池炭鉱の従業員等をもつて組織する単位労働組合であつて、前示各支部や職場分会は、その一下部組織にすぎず、組合規約上当該支部および分会限りの事項に関して自主的に処理し得ることが認められているとはいえ、あくまで組合の統括を乱さない範囲において限定的に認められているにすぎず、三池労組の活動から独立した独自の社会的活動分野を有するとは認められず、また独自の規約も財政的基礎も有しておらず、独立した社団の実体、すなわち、それ自体独立した労働組合の実体を備えないものである。従つて、三池労組の職場組織は、独自の団体交渉権の主体たり得ず、団体交渉の当事者たる資格も、また固有の争議権をも保有するものではない。

かくして、組合内部の構成部分にすぎない各職場の組合員は、職場単位で争議権の行使に関する独自の決議と執行の能力を有しないのであつて、組合執行部の指示を離れて職場独自の争議行為を実施することは、組合規約に違反し、組合内部における統制違反の問題を生ぜしめるにとどまらず、争議権を行使し得ない集団による企業の業務阻害行為として使用者に対する違法な争議行為となるものといわなければならない。

しかして、組合の決議等正当な手続により、組合が保有する団体交渉権、団体行動権、妥結権の三権を、組合の構成部分にすぎない下部機関に委譲したとしても、それにより下部機関が組合から独立した独自の三権を取得するいわれはない。けだし、三権の委譲とは、通常団体交渉権の確立を目的として、分散した交渉権を一個所に集中するためとられる措置で、交渉権が一つしか存在しない単位労働組合内において上下機関の間において行われる委譲なる概念は、右のごとき交渉権の集中という意味ではあり得ず、組合が下部機関に交渉権限を付与するものであつて、権限の付与を受けた下部機関において選ばれた者が交渉担当者となつて組合の団体交渉権を行使する関係にたつものであり、それは下部機関が組合と別個の独自の団体交渉権をもつことを意味するものではない。

そして、右に述べたごとく、組合が、その保有する団体交渉権、妥結権に基き、団体交渉や協約を締結する権限を下部機関に付与し、下部機関が、組合の右権能を根源として、その権限を行使し、使用者と団体交渉をし、協約を締結することは許されるものと解すべきであり、また職場の団体行動も、組合の指令に基く部分的争議行為の要件を充足し組合の争議行為と認められるかぎり正当な行為と評価されるのであつて、組合の下部機関に対する三権委譲も、右の要件に該当する限度でその法的意味を有するものと解せられる。

ところで、前示のとおり、三池労組の支部、職場分会は、組合規約上、それぞれ決議機関と執行機関を有し、支部あるいは職場分会限りに関する事項について、組合の統制を乱さない範囲において自主的にこれを処理することが認められていたが、三池労組は、昭和二九年以降、炭労の運動方針に則り、職場交渉を基本とする職場闘争を組織し、職場の組合員が会社に対するそれぞれの要求を出しあい、これを職場の討議により取捨選択して整理し、職場限りで解決できる問題は職場交渉を通じて、また支部限りで解決できる問題は支部と各鉱との鉱支間交渉を通して解決することとし、支部および職場分会に対し支部、職場限りの問題については各鉱や職場職制と団体交渉することを容認しこれを推奨していたのであつて、かかる事実関係に照らすと、三池労組の支部や職場分会は、支部・職場分会限りの事項について、組合より包括的に会社と団体交渉をし協約を締結する権限を賦与されていたものというべく、各支部、職場分会は右権限に基き、現場職制と団体交渉をする権限を有していたものといわなければならない。(右授権の範囲、すなわち交渉事項の範囲は、支部部や職場分会が組合の下部機関であることや、かかる下部機関が設けられている趣旨およびその組織内容に照らし判断さるべきものであるが、所属組合員の個別労働契約についての権利紛争に関する苦情や日常の作業条件に関する個々具体的な不満は勿論、職場労働者に共通な、しかもその職場特有の労働条件等はその範疇に含まれるであろう。そして、右交渉は組合の上部機関の明示または黙示の指示に反することは許されず、かつ交渉の時、場所、方法も労働協約や労使間に形成された慣行に従つて行われることを要する。)

ところで、右の如く三池労組の支部や職場分会が団体交渉をなし得る場合においても、交渉不調に際し支部や分会かぎりの判断で争議行為をなし得るものとはいえない。けだし、支部や職場分会が団体交渉をなし得るのは組合が保有する交渉権を根源として派生的に権限を賦与されたからにほかならず、その交渉は支部分会に独自性のあるものではなく、交渉の当事者はあくまで組合自体と観念されるべきであるから交渉が不調に至つた場合には、改めて上部機関に吸いあげて交渉を継続するか争議に入るか(交渉を尽したことが前提となる)は、組合が自ら判断し指示すべきものと解せられるからである。

しかして、支部や分会に独自の争議権がないことは前示のとおりであり、また三池労組組合規約五八条、五九条の規定から、組合が支部や職場分会に対し包括的に争議行為に突入する権限を賦与していたと解することはできず(同規約三八条「同盟罷業の開始は組合員による直接無記名投票の過半数の支持を得なければならない」との規定の趣旨に反する事前の一般的包括授権はあり得ない)、三池労組が日常の職場交渉において、下部機関独自の判断でストライキ等の実力行使をすることを一般的に承認し指示していたことを首肯するに足る資料はない。

加えて、〈証拠〉を総合すると、前示のとおり、昭和三一年二月二五日ストライキ権を確立したうえ開始された到達闘争に際し、三池労組本部より下部機関たる支部、分会に対し三権の委譲が行われ、同年四月一六日右南達闘争に関する労使の協定が成立したことにともない、右三権が旧に復したことがあつたが、それ以外に三権の委譲が行われた事実はなく、右到達闘争の際の委譲にしても、争議権については組合闘争本部の戦術委員会がこれを掌握し、支部、分会が実力行使をするについては右戦術委員会の事前の承認が必要とされていたのであつて、その実質は争議権を除く二権の委譲にすぎなかつたことが認められる。」

二一〇一申請人相浦和弘、一〇二同今村輝男、一〇五同木下広、一〇六同国徳光輝、一〇九同杉本武末、一一一同添島実、一一三同田中邦彦、一一五同永田謙治、一一六同永嶋隆雄、一一八同中山昌広、一二〇同野口正喜、一二一同原田芳信、一二四同前田基久、一二六同前原正則、一二八同吉田義勝、一二九同吉富正信、一三〇同村上春美、二〇二同池田昭二、二〇三同石山三四郎、二〇八同江川憲徳、二〇九同小山晃、二一〇同川崎学、二一一同神保芳秋、二一二同川野利丸、二一三同北村瞳、二一六同久後男二、二一九同小森隆一、二二二同阪口次男、二二三同坂本敏雄、二二五同坂口孝一、二三三同田島修三、二三七同竹中忠雄、二四三同津留崎政年、二四九同野田春次、二五〇同稗島広、二五二同福島進、二五三同益田秋吉、二五四同町秀雄、二五七同前田喜伝、二六一同山田拳二、二六三同山北宗助、三〇二同伊牟田春雄、三〇三同上田義光、三一二同田島宏康、三一九同蓮尾善五郎、三二二同平畑金一、三二三同藤原登、三二六同那須俊春、四〇一同亀崎茂、四〇三同瀬口康博、四〇七同中島知博、四〇九同藤本正友、四一〇同松尾三喜、四一二同松尾鉄也、四一三同宮崎良勝、四一五同若松三代次、五〇一同浦本明、五〇二同大城義雄、五〇三同兼屋重夫、五〇四同川畑昭二路、五〇五同黒田久夫、五〇六同古賀正澄、五〇八同古賀清、五〇八同古賀義澄、五一二同関良平、五一五同西原彦次、五一六同林田常利、五一八同平田勝、五二〇同堀田一喜、五二五同宮崎明年、五二六同森和敏について。

当裁判所も、右申請人らに対する解雇は正当であり、本件各申請を却下すべきものと判断するのであるが、その理由は、原判決の各申請人該当部分の理由説示と同一であるからこれを引用する。(但し別紙訂正一覧表のとおり訂正する。)

三一一二申請人田中保光について。〈中略〉

一二二 二三一申請人谷端一信について。

当裁判所も、申請人谷端に対する解雇は正当であり、本件申請を却下すべきものと判断するのであるか、その理由は、左のとおり付加訂正するほかは原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。〈編注・第一審判決中この部分は本誌二五三号七八頁参照〉

(一)  原判決六二四頁下段一八行目「右職場闘争の大部分は」とあるを「右職場闘争として行われたものの中には」と改め、同二四行目「行なわれ」の次に「たものがあり、」を挿入し、同行「これか」の次に「次第に」を挿入し、六二五頁上段一覧表合計欄「264」を「364」と訂正し、六二六頁上段三行目から四行目に「大衆闘争の大義名分のもとに正規のストによらず会社に効果的な打撃を与える」、同五行目「その大部分は」を各削除し、六二六頁下段二行目から三行目にかけて「ところであるから」とあるを、「ところである。」と改め、同三行目「かかる多数」以下七行目末尾までを次のとおり改める。「しかし、三池労組が職場闘争をその運動方針として採択し、支部や職場分会にその遂行を指示したとしても、それは労働運動が本来大衆運動であり、組合員の意識をたかめ、組合員大衆を基盤とした運動を組織し、職場分会単位の職場交渉を中軸として生産点において闘争を展開することこそ組合運動の正しい在り方であるとの認識に基く一般的指針を示したにすぎず、それは個々の労使紛争についての具体的な闘争指示ではない。そして職場闘争は、個々の組合員が、職場における労働条件についての要求や、その他日常の職場苦情を出しあい、相互に討議して会社に対する職場要求を集約し、組合の授権に基き、職場の代表者が、職場において解決するにふさわしい問題について、対応する現場職制と話合うことによつてこれを解決したり、あるいは会社と組合の本格的な団体交渉によつて解決すべき問題についても、その前段交渉として職場の問題点を整理するため必要な交渉をするなどのことは、職場要求が容れられない場合に組合の争議指令に基くことなく、ただちに坐り込み、入坑遅延、作業放棄、職制の業務妨害など違法な実力行使におよばないかぎり、何ら批難さるべきものではなく、三池労組が運動方案として採つた職場闘争の内容が、右のごとき違法な実力行使を指示するものであつたとは全疎明資料によつても認められない。ただ、職場闘争が日常闘争として展開された場合、その大衆運動的性質から、一部職場の組合員による違法な実力行使に発展し、会社の業務を阻害する危険があり、かつ前示のとおり現にかかる事態が頻発したことに鑑みると、組合が組合統制の見地から違法行為の発生阻止や発生した違法行為を中止させるため努力する必要があるばかりでなく、対会社関係においても、信義則上統制権を的確に行使し、かかる違法状態が生じないよう組合員を指導すべき義務を負うものというべきであり、かかる義務の履行を怠ることによつて会社に損害を与えた場合には、その賠償責任を追求される余地もあり得るであろう。しかしながら、組合の幹部が、組合の幹部であるが故に、所属組合員がおかした違法争議についてすべて個人的に責任を問われる合理的理由はない。

申請人谷端が、三池労組の下部機構である三川支部の支部長として、三池労組の統制のもとに所属組合員の組合活動につき企画・指示・指導をする職責にあり、組合の運動方針に従い職場闘争を指示し推進したとはいえ、それはあくまでも一般的な運動の指針としてのそれにすぎず、これによりただちに一部職場の組合員がおかした違法な実力行使について、個人として責任を負うものと解しがたい。要は、具体的に発生した個々の違法な行為について、申請人谷端自身がいかなる限度で関与したか、すなわちこれを企画し、その実行を指令し、指導したとか、かかる違法行為を指示したわけではないが、個々の労使紛争につき具体的に指示した争議戦術の内容に照らし、かかる違法行為の発生が予測され、かつ適切な指示をなせばその発生を防止することができる状況であつたのに敢えてこれをしなかつたためそれが生じたとか、さらには組合の運動方針を越え一部職場の組合員によつてなされる恣意的な争議行為に対し、適切な統制指導をなし得る状況にあるのにこれを行わず、むしろかかる行為を放任あるいは容認することによつてかかる風潮を助長し、そのため発生が予測されかつ自己の指導により回避可能な違法行為について、回避の努力をしないことによつてそれを生ぜしめた等々、個人に責任を帰せしめるに足る合理的な理由を具体的に確定しなければならないものと解せられる。しかるところ、会社が集計した前示三六四件の三川鉱における職場紛争のうち、本件三川鉱関係の各申請人に対する解雇理由としてとり上げられた一二〇件を除く、その余の紛争については、事案の具体的内容について何ら疎明がなく、申請人谷端の個人的責任を追求する帰責事由についても、これを肯認させる資料はなくまた事案の内容が明らかである右一二〇件の職場紛争については、いずれも三池労組の正当な争議行為として行われたものではなく、組合の統制外の行為であることはそれぞれの各論において認定判断したとおりであり、組合の上層幹部が具体的な違法行為を企画し、指示し、指導したものではないことは明らかであり、ただ長期間に多数回違法行為が頻発している事実に鑑みると、組合活動を指導する立場にあつた申請人谷端が、その職責を果さなかつたためにかかる職場紛争が頻発したのではないかとの疑いから、その個人責任を追求する余地が考えられないわけではない。しかしながら、事案の頻発という事態から直ちに具体的な違法行為についての帰責事由の存在を推認することはできず、右一二〇件の事案中後記解雇理由(ロ)、(ハ)、(ニ)の事実を除くその余の事案について、具体的に帰責事由を疎明する資料は存しない。従つて、会社主張の解雇理由(イ)については疎明がないことに帰し採用できない(なお、具体的帰責事由について疎明のある後記解雇理由(ロ)、(ハ)、(ニ)の事案については、それぞれの解雇理由において判断されるので、それがあるからといつて、二重に評価し解雇理由(イ)が独立して理由があるということはできない)。」

(二)  六二七頁上段七行目「解雇理由(ホ)(チ)記載」とあるを「解雇理由(ホ)の(4)記載」と訂正し、六三一頁上段二六行目「本件解雇理由中」の次に「(イ)はその疎明がないか」を挿入し、同二八行目「(イ)はこれをあてはめる」以下同三〇行目「事実であるから」とあるを「その違法の程度も重大であるから」と改め、六三一頁下段六行目から七行目にかけて「前記解雇理由(イ)の如く長期間にわたり違法な職場闘争を企画・指導して会社業務に与えた業務阻害の責任もさることながら」とあるを削除し、同一五行目から一六行目にかけて「違法」とあるを「適法」と訂正する。

一三 二三二申請人田代貢について。〈中略〉

一四 二三六申請人立石武博について。

当裁判所も、申請人立石に対する解雇は正当であり、本件申請を却下すべきものと判断するのであるか、その理由は、原判決六四一頁下段二行目末尾の次に「なお、申請人立石は、専従執行部員として、違法な実力行使の実情を把握し、できるだけ早く正常な状態にもどして繰込みに応じさせるよう努力すべきであり、一般組合員の中には、紛争解決は代表者にまかせて入坑しようという動きすらでていたのに、かえつてこれを押しとどめ、これら組合員の士気を鼓舞して入坑拒否の意思を強固ならしめ、もつて違法な実力行使を助長し、さらには、鉱副長と三川支部沖労働部長との話合いの趣旨に反し、あくまで謝罪を要求するとともに、要求に応じなければ引続き坐り込みを継続する旨を述べて坐り込みの継続を煽動し、その後引続き坐り込みを続行させるについて力があつたというべきである。そして、かかる行為は申請人立石が紛争を収拾するについての最高責任者の地位にはなかつたとしても、坐り込んだ一般鉱員と同列に事を論ずるわけにはいかず、違法な実力行使により会社業務を妨害し、職場の秩序を乱すについて、その推進に力があつたものとして、他鉱員と異る評価を受けてもいたしかたのないものである。」と付加し、六四三頁下段二〇行目に「乙二三六号証の三」とあるを「乙二三六号証の二」と訂正するほかは原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

一五 二四四申請人寺尾剛について。〈中略〉

二一 三一一申請人谷口又男、三二四同藤木恵祐、三三〇同宗邦洋、三三一同矢田正剛について。

当裁判所も、右申請人らに対する解雇は正当であり、本件申請はいずれも却下すべきものと判断するのであるが、その理由は、原判決七六一頁上段二一行目から二二行目「永吉照夫」を「永吉昭夫」に、七六六頁下段一六行目「金澤三六部」を「金澤三六郎」に、同一六行目から一七行目「右二片二中段」を「右二片右二中段」に、同三〇行目「午前」を「午後」に改め、七六七頁上段一九行目「右平川の説明が事実を多少誤り伝えたとしても」を削除し、七六八頁上段一九行目「平場寿美子」を「草場寿美子」に(以上谷口関係)、八一〇頁上段一行目「藤木恵裕」を「藤木恵祐」に改め、八一二頁上段一八行目「また前記井野」以下二一行目「当然であるか。)」までを削除し(以上藤木関係)、八三七頁上段二三行目、八三八頁上段九行目の各「藤枝忠良」を「藤枝忠博」に、八三七頁下段三行目「藤木悪裕」を「藤木恵祐」に、八三八頁上段五行目から六行目、同七行目の各「藤木恵裕」を「藤木恵祐」に、八三九頁上段二四行目「右四片連延」を「右四片連昇」に、八三九頁下段二四行目から二五行目「約三〇分」を「約五〇分」に(以上宗関係)、八四二頁上段一一行目、同一四行目の各「藤木恵裕」を「藤木恵祐」に、同二七行目「休憩時間」を「交替時間」に、八四二頁下段二六行目「二〇分」を「三〇分」に、八四四頁上段一七行目「四」を「三」に(以上矢田関係)各改め、さらに後記のとおり付加するほかは、原判決の理由説示と同一であるからそれぞれ当該部分を引用する。

「申請人らは、電気工の賃金についてのいわゆる一括単価制の実施に関し要求を貫徹するため、電気分会総会において、保安優先を原則とし保安規則や協定慣行を守つて安全作業をする遵法闘争を行う旨決定し、所定作業時間中、固定流動給(B給)の作業として要求される労働を右申し合せの趣旨に則り提供し、作業終了時刻到来とともに作業をやめたが、そのため会社主張のごとき作業の仕残しが出たとしても、それは正当な組合活動の結果であつて、作業懈怠によるものではなく、自ら故意に作業能率を低下させたり、作業を放棄したこともなければ、他の鉱員を煽動してかかる行為をさせたこともない、というのである。なるほど、引用にかかる原判決認定のごとく(原判決七六三頁上段二行目より同下段一三行目まで)、坑内電気工らが、一括単価制の実施に関連して、従前の作業能率を低下せしめる各種手段を遵法闘争として行うことを申し合わせており、かつ右申し合せは電気分会所属組合員が各作業所或いは方別毎の常会において各別に協議決定したものであり、従つて三池労組の規約(甲六号証の一)に則つた職場会議の決議そのものとは言えないが、当時これに準ずる機能を果していたことは原判決判示のとおりであり、職場における組合員の組合活動として行われたものといえる。しかしながら、右申し合せは、作業終了時刻到来前に作業を放棄したり、あるいは怠業をして、故意に完了可能な仕事の仕残しをすることまでは含んでいないところ、申請人らは作業時間内に労働契約上要求される労働義務を誠実に履行すれば容易に完了することのできる作業について、自らその義務を履行せず、また他の電気工をしてこれを履行させず、徒らに作業の能率を低下させ、あるいは作業終了時刻到来前に作業を放棄して予定の作業を完了せず、そのため、会社をして、予定作業の完了を前提としてたてられたその後の作業計画の変更をよぎなくさせ、会社の業務を阻害したことは原判決認定のとおりである。しかして、申請人らはかかる業務阻害行為をして、正当な組合活動であるというのであるが、三池労組が宮浦鉱電気工の賃金についての一括単価制に関し、争議行為を行う旨決定した事実や、宮浦鉱電気工にかかる指令を発した事実を疎明する資料はなく、また宮浦支部労働部長竹村季敏が右申し合せに関与したことは窺えるものの、宮浦支部においてかかる闘争を争議行為として行う趣旨の決定をした事実を疎明する資料もない本件においては、かりに、右職場における申し合せが業務の正常な運営を阻害する争議行為を実施する趣旨を含み、申請人らの行為がこれに基くものであつたと仮定しても、独立した労働組合としての社団的組織体を有しない職場分会が、組合の統制の枠外において、独自に争議行為を行うことはできず、このことは、総論において指摘したとおりであるから、これを正当な組合活動と評することはできず、対会社関係においては職場規律に違反する違法な行為といわなければならない。

当審における申請人矢田本人尋問の結果中引用にかかる原判決認定の事実に反する部分は、原判決挙示の証拠に照らして措信できず、他に右認定を覆すに足る疎明はない。」

二二 三二七申請人前田剣について。〈中略〉

二五 四〇四申請人田中夫について。

当裁判所も、申請人田中貞夫に対する解雇は正当であり、本件申請を却下すべきものと判断するのであるが、その理由は、原判決八六五頁上段二四行「五〇米部内」を「五六〇米部内」と改め、左のとおり付加するほかは、原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

「なるほど、本件四山繰込場における油田、木原両係長に対する抗議行動は、両係長が会社の人員整理作業の一環として原判決判示のごとき行為をなしえたことに端を発しているものである。しかし、総論において判示したごとく、永続的な経営危機に直面した会社が、企業の再建存続をはかる以要上、経常費節減のため多数労働者を整理解雇するに至つたのはやむを得ないことろであり、かかる人員整理の目的を達成するため、職制をして整理基準該当者に対し適法な手段方法で退職勧奨することは適法な業務行為として許されるべきものと解せられる。それは、労働組合が人員整理に反対し、退職勧奨を断固拒否する闘争を展開し、組合員に対しその旨指令していたからといつて、その理に変りはない。勿論、組合は、組合員に対する統制を厳しくして団結を強化するとともに、争議その他の団体行動をもつてこれに対抗し、あるいは会社の行う退職勧奨を適法な手段で妨害し、かつ勧奨をなした職制らに対し集団示威等相当な手段方法による大衆行動によつて説得し抗議することは許されるけれども、これを越え、適法な争議行為によらずに作業放棄をして会社の業務を阻害したり、あるいは暴力の行使により個人の基本的人権を侵害するがごとき犯罪行為をするにおいては、もはや正当な組合活動ということはできず、職場秩序違反としてその責任を問われることは勿論、人員整理に際し、これを勤務成績不良として整理基準に該当する行為として評価することもまた許されるものというべきである。

しかして、油田、木原両係長が、四山鉱長の指示により、人員整理業務の一環として、整理基準該当者に該当している旨を知らせ、または知らせようとした行為を目して不当労働行為その他の違法行為ということはできない。

ところで、炭労は、昭和三四年五月九日、炭労中闘発第六二号企業整備反対闘争に関する指令(成立に争いのない甲四〇四号証の一九)をもつて会社の退職勧誘勧告(肩たたき)が行われることが予想されるので該当企業連傘下支部は組織の確立と大衆動員、抗議行動を実施せよ、と指令し、また、同年六月六日、炭労中闘発第六五号ストライキ突入に関する指令(成立に争いのない甲四〇四号証の二〇)をもつて、希望退職募集に関し、会社の巧妙な勧誘勧告が察知または現認された場合には、徹底的な大衆行動を組織するほかその不当性追及を実施せよ、と指令し、更に、同年九月炭労中闘発第一〇二号企業整備反対闘争推進(ストライキ突入)に関する指令(成立に争いのない甲四〇四号の二一)をもつて、合理化(首切り)の強行が予想されるので、各支部は前記指令第六二号、第六五号によつて退職誘勧に対処するよう指令し、以上の各指令に基き、三池労組は、同年九月一九日三池労組指第四号退職募集の強行阻止について(成立に争いのない甲四〇四号証の二二)と題する指示をもつて引用にかかる原判決判示のごとき一般的な指示をしていたことが認められる。

労働組合は違法な行為を指令することがあつてはならず、従つて、右炭労指令にいう「大衆動員」「抗議行動」「大衆行動」「不当性追及」は労組法上保護される正当な組合活動の範疇に属する行為を意味しているはずのものであり、それが暴力の行使その他違法な行為にまで出ることを認めている趣旨とは到底解することはできず、指令を受ける下部機関もまたそのように理解してはならないものといわなければならず、三池労組指示第四号にいう「追及行動」の意味もまた同様に理解すべきである。

そうであれば、四山支部闘争委員長である木村支部長は追及行動をおこすについて(右三池労組指示第四号により支部闘争委員長は追及行動の具体的指示権を有するものと解せられる)、時間、場所、機会、方法等に照らし、適法な行動指令を発すべきである。そして、組合は、組合員に対し違法な指令に従うことを強制することができないと同時に、組合員は違法な指令に服従する義務はなく、むしろ客観的に違法な指令には従つてはならないものと解せられるので、指示に従い違法行為を敢へて行つた場合には、組合上部の指示に従つたという一事でもつてその責を免れることはできないものと解する。

引用にかかる原判決判示のごとき事実の経過に鑑みると、油田、木原両係長に対する本件抗議行動は、木村支部長の指揮のもとに組合活動として行われたものということができる。その結果常一番繰込時(午前七時五〇分頃)から解散時(一三時五〇分頃)までおよそ六時間繰込場の機能は全く停止し、常一番出役者の大部分七二七名は右解散時まで就労せず、解散後も入坑して作業する時間がなく、結局坑外作業に従事し、さらに、同日の二番方出役者一九二名についても二〇分ないし一時間の入坑遅延を生じ、会社の業務を著しく阻害したこと、および油田木原両係長に暴力が行使され、犯罪行為に発展したことは、引用にかかる原判決判示のとおりである。

かかる行為は、両係長に対する抗議のための行動であつたとしても、同人らの基本的人権を侵す犯罪行為として、その手段方法において正当な組合活動の限界を著しく逸脱していることが明らかであるばかりでなく、本来使用者の指揮命令に従い就労を義務づけられている勤務時間中に会社の許可を得ることなく行つた組合活動として違法であり、また三池労組が、本件抗議行動に際しストライキを行う旨決議したり、四山支部組合員にストライキの指令を発したりした事実を疎明する資料はなく、むしろ本件事実の経過に照らすと、かかる正規の争議の決議をすることなく、木村支部長、申請人松尾三喜教宣部長、申請人田中貞夫および寺中義雄教宣部員、五六〇米郎内中央委員兼職場分会長であつた西田博、九〇〇部内三交代中央委員兼職場分会長であつた申請人宮崎良勝らか、当日朝、既に繰込みを受け入坑しようとしていた鉱員や、繰込中の鉱員、入坑するため繰込みをまつていた鉱員らを繰込場で煽動し、これら鉱員に作業を放棄させて抗議のための大衆行動を組織したものであることが推認できるので、右は正当な争議行為ということはできず、前示業務阻害の違法性を阻却する事由は存しないものといわなければならない。

申請人田中貞夫は、単に木村支部長の指示に追随した附和随行者ではなく、木村支部長とともに、右違法な抗議行動を企画、指導、推進した者の一人であり、かつ現場にあつて積極的に両係長に暴行を加えたもので、その責任は大きく、これをもつて本件人員整理基準の勤務成績不良の者に該当するとした会社の判断に誤りがないことは、引用にかかる原判決判示のとおりである。なお、違法な指示に服従すべき組合組織上の義務のないことは前示のとおりであり、抗議行動が違法な行為であることが客観的に明白な本件において、右申請人に判示のごとき行為以外の適法行為を期待し得なかつたとはいえない。そして、〈証拠〉によると、右抗議行動の最高責任者で、これを企画、指導、推進したばかりでなく、自ら現場にあつて積極的に行動した木村支部長は、本件人員整理に際し解雇されていないのであるが、それは会社において、右行為の責任追求として、当時既に同人を懲戒解雇にすべきであるとの結論に到達していたからであり、その後本件指名解雇を経ていわゆる三池争議に突入し、労働協約に基く懲戒処分のための協議ができずにいたところ、三池争議終了後の昭和三八年八月二三日、同争議中の違法、行為と本件の違法な抗議行動を理由に懲戒解雇したことが認められるのであつて、同人の行為が不問に付されたわけではないことは明らかである。

次いで、不当労働行為につき付言するに、吉村労働部長、小山、下川労働部員らも繰込場に参集し、(吉村、小山の両名が両係長の吊し上げに加担したこと、しかしその程度は申請人田中貞夫の行為に比すれば軽かつたことは、引用にかかる原判決判示のとおりであり、三池労組分裂後、同人らはいずれも新労に加入しているが、組合分裂は昭和三五年三月のことであり、本件指名解雇が実施された昭和三四年一二月当時既に右組合の分裂が予想され、同人らか新労に加入することが予測されていたとの疎明はないので、右新労加入の事実から差別待遇を推認することはできない。

当審における申請人田中貞夫本人尋問の結果中以上の認定に反する部分は措信できない。」

二六 五一一申請人角経弘について。〈中略〉

三二 三二八申請人前田義則について。

当裁判所は、申請人前田義則に対する解雇は正当であり、本件申請を却下すべきものと判断するのであるか、その理由は、左のとおり付加訂正するほかは原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

(一)  原判決八二三頁下段一六行目から一八行目までを全部削除する。

(二)  八二三頁下段二八行目以下八二四頁上段二〇行目までを次のとおり改める。

「4、右認定のとおり、申請人前田義則か、「資金繰りがわるく期末手当の一括払いができないというのなら、いつそのこと会社が本当に潰れてしまえばよい。そうなれば我々は手を叩いて喜んでやる。」といつたことは、その言葉のみから判断すると、いかにも会社の崩壊を望むかのごとくみえ、労働契約に付随する労働者の誠実義務に違背するかのごとくみえる。しかしながら、若林所長が自ら中央委員らの前で会社の窮状を説明したとはいえ、中央委員らかこれを納得して黙つて帰らなければならない理由はなく、しかも、労働者の生活に直接響く期末手当の分割払を目前にして、意見の陳述が許されるかぎり(なお、当日中央委員らの発言自体がとめられていたとの疎明はない)、右所長の見解と異にする立場からの意見を述べたからといつて、これをとがめだてすることはできない。そして、人の発言内容は、その言葉の一つ一つを他を切離して評価すべきものではなく、発言全体を通じて理解されなければならないところ、前示認定の事実によると、右申請人の発言の趣旨は「労働者は会社の不況宣伝にまどわされてはならず、会社には期末手当を一括して支払う能力があるから、団結してその支払要求を勝取るべきである。」というにあり、前示「会社が潰れる云々」の発言は、会社の支払能力に関連してなされているが、その発言自体からみても、会社を倒壊させることを煽動する積極的な内容のものではないことは明らかであり、それは、右申請人自身が否定する「支払能力がなければ」という仮定のうえでの、しかも会社か潰れるということは現実におこるものではないことを前提にしての発言であつて、その表現に不穏当なものがあるけれどもその意味するところは、積極的に会社が潰れることを希求するというのではなく、会社は期末手当を一括して支払う能力があり、これを支払つたからといつて決して潰れることはないということを強調するにあつたと解せられる。

しからば、右発言をとらえて、誠実義務違反というのは相当でなく、またその趣旨はいわゆる破壊的言動とは言えないので、これをもつて会社従業員としての適格性を疑わしめる事由とするのは相当でない。

しかしながら、右発言を理由とする解雇をもつて不当労働行為というのは相当でない。労働者が組合活動の一環として期末手当の一括支払を求める行為は、正当な行為としてなんら批難されるべきものではなく、それ故にこそ〈証拠〉によつても、会社自身、右要求行動は当然のこととして認め、右申請人が一括支払を要求する発言をしたこと自体を解雇理由としたものではないことは明らかである。〈証拠〉によると、会社が問題とするのは、前記会社が潰れれば喜ぶ旨の発言であり、その趣旨は前示ののごとく解すべきものであるか、それ自体誤解をまねく不穏当な表現であることは否定しがたく、会社の危急をいかにしてのりきるか苦慮していた会社の幹部らか右発言を重視し、会社従業員としての適格性を疑つたことも理解できないわけではないことを考慮すると、右発言をもつて解雇理由に掲げたことは、右申請人の組合活動を嫌悪してのものではなく、右発言に対する評価、すなわち整理基準に該当するかどうかの判断をあやまつたからにすぎないというべきである。」

(三)  解雇理由(ロ)に関する事実認定の資料として、成立に争いのない乙三二八号証の一三、一四および当審証人秋吉巻雄の証言を付加し、八二四頁上段二七行目から二八行目までの「(後記信用しない部分を除く)」を削除し、四二五頁上段六行目「決定された」を「予定される」に改め、同一一行目の次に「そして、前示のとおり、切羽廻り作業は測量係の作業の中でも不可欠のものとされており、測量工の出役員数が不足する場合には機械測量工が切羽廻りを応援しなければならず、従つて、機械測量の作業は、当日の朝繰込み直前に出役状況が明らかにならない限り確定できない関係にあり、さらに常一番勤務である測量工が昇坑した後、三番方の作業中切羽等の条件が急変し、緊急に機械測量を実施しなければならない事態が生ずることがあるので、前日昇坑時に予定された機械測量は、当日の繰込時までに予定が変更される可能性は大きく、従前係員の判断で、かかる予定変更が行われたことも珍らしいことではなかつたし、また測量工にとつて、前日予定された作業が当日の朝になつて変更され別の作業を指示されても労働条件に及ぼす影響は殆んど皆無であつたので、予定どおりの作業をするよう要求することはなく、かつ係員も、繰込みに際し変更の理由を説明せず、また説明がなかつたからといつて、特に繰込みが紛糾するということはなかつた。」を挿入し、八二五頁上段二六行目「これを必要と認めたのである。」を削除し、同所に、「右クリノメーターによる測定により、差当り、採炭に支障はないか、中心方向か正しいかどうか、念のため確めておいた方がよいと判断し、その申し入を容れていたものである。」を挿入し、八二五頁上段二九行目「依頼を受け、」の次に「それは、従前採炭していた切羽がたおれた(天盤不良や予想外の断層が出て採炭を中止することをいう)ためにこれに代る切羽を新設するもので、当日の二番方から繰込み予定につきそれまで測量工において中心線を測設してほしいというもので、緊急を要し、かつ」を挿入し、八二五頁下段一八行目「させてほしい旨要求し、」の次に「前記西四五昇と西三五昇の事情を詳しく説明し、」を挿入し、八二六頁上段四行目から六行目に「同労働部長が大澤宮浦鉱副長からも事態収拾方の電話依頼を受けたかどうかは必ずしも明らかでない。」とあるを「同労働部長は大澤宮浦鉱副長からも事態を収拾して早急に入坑させるようにとの要請を受けた。」と改め、同一〇行目「岡崎」を「国崎」に、同一二行月「午後」を「午前」に、同二三行目「田中係員」を「田口係員」に各訂正し、八二六頁下段一行目から二行目の「乙三二八号証の二」を削除し、同四行目「田口係員か」以下一〇行目「評せざるを得ず、」を削除する。

(四)  解雇理由(ハ)について、八二七頁上段六行目「昭和三四年七月」を「昭和三四年六月」に訂正し、同下段八行目「徹夜でもやれ」を「徹夜でも吊し上げろ」に改め、同九行目「右のような状況下に申請人前田義則は」とあるを、「次長や人事部長らが発言する合間に意見発表と称して組合員からマイクで次々に抗議が行われ、これに呼応して周囲より罵詈雑言があびせられ、その激しさを加えるうち、申請人前田義則は、」と改め、八二八頁上段一三行目「従つて」以下八二八頁下段一行目までを削除し、同所に、「(もつとも解雇理由(イ)におけると同様の考え方から右発言をもつて労働者の使用者に対する誠実義務違反と言うことはできないが)、この意味において職場秩序を乱したとの評価を受け、整理基準該当性判断の一事由になり得るものといえるか、右集会は賃金の分割払という労働契約上の義務違反が目前に迫つている中で、生活に困窮する労働者が山元の会社幹部に抗議せんとするもので、会社にも責められるべき事情があること、および右集会は三池労組が企画、指導、推進したものであるところ、約旨に反しそれを違法な吊し上げに発展せしめたことにつき組合の幹部に対しその責任追求がなされた疎明がないこと(すくなくとも、本件人員整理について組合幹部が本件抗議集会を理由に解雇されたものはいない)を併せ考えると、整理基準該当性判断のうえこれを重視することは許されないものといわなければならない。

ところで、労働者が賃金の正当な支払を求めて使用者に抗議をすることは、社会的に許容される正当な手段。方法によるかぎり、当然許されるべきことであり、会社が申請人前田義則において賃金の一括支払を求めたこと(正当な組合活動)を解雇理由としたものではないことは、〈証拠〉によりこれを認めることができる。

そして右疎明資料によると、会社が解雇理由として問題にしているのは「会社は早く潰れればいい云々」の発言であり、この言葉の趣旨は解雇理由(イ)において示したと同様の趣旨と解せられるが、これを解雇理由として掲げたことをもつて不当労働行為とみるべきでないこと解雇理由(イ)において説示したとおりである。」を挿入する。

(五)  解雇理由の評価について、八二八頁下段一二行目以下八二九頁上段四行目までを次のとおり改める。

「以上、各認定ならびに説示したところによると、申請人前田義則の解雇理由(ロ)の行為は不当行為類型1に、(ニ)の行為は同3に、(ホ)の行為は同5に該当し、解雇理由(ハ)の行為はこれを重視することはできないが、不当行為類型3に準ずる職場秩序を乱す行為というべく、会社がこれらの行為を総合して、整理基準(二)の(ハ)勤務状態不良の者に該当するとしてなした解雇は正当というべきである。右解雇を正当とする事由が存することから、解雇理由としては合理性を欠く同(イ)の事実を斟酌したからといつてこれが不当労働行為になるものではなく、申請人前田義則が前示組合の役職にあつたことから直ちに、右解雇が不当労働行為に該当するものとは推認できないことは勿論、他に不当労働行為あるいは解雇権の乱用として解雇を無効ならしめる特段の事情を認めることはできない。

三三 五二一申請人堀栄吉について。

当裁判所は、申請人堀に対する解雇は正当であり、本件申請を却下すべきものと判断するのであるが、その理由は、左のとおり訂正付加するほかは原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

(一)  解雇理由(1)(イ)について、一〇九四頁下段二六行目から二七行目「発言になつたのであるが」の次に「申請人堀は入社後一年余経たにすぎず、後記のとおり怠け者で、日頃同僚より相手にされていなかつたところから、」を挿入し、一〇九五頁上段三行目の次に「さらに、後記認定のとおり翌三〇日繰込み後、各作業現場に出発しようとする万田詰所の作業員全員に、「執行部員らが逮捕されたのは、会社と警察がグルになつて組合を弾圧しようとするものであるから、組合員は作業放棄をもつて対抗すべきだ。」との趣旨のガリ刷りのビラを配布した。しかし、これによつて作業放棄が行われたことはない。」を挿入し、一〇九五頁上段一一行目冒頭から一七行目末尾までを削除し、同所に、「なお、〈証拠〉によると、申請人堀は、湯浅港務所長吊し上げ事件に関連し三池労組員が逮捕されたことに抗議するため作業放棄をするべきであるとの意見を、職場集会その他の三池労組の正式機関に提出したことはないというのであるから、前示作業放棄を呼びかけた行為は恣意的なはねあがりの行為というべきである。それが同僚から黙殺され、結果的には作業放棄や作業遅延等の実害が生じなかつたことや、当時、第二次企業再建案が発表された後で、労使関係が緊迫していたことを考慮に入れても、申請人堀がかかる行為に出なければならなかつたことを首肯せしめるに足る、さしせまつた事情はなんらみあたらず、恣意的に会社業務の阻害を煽動したものとしての職場規律違反性を軽視するのは妥当でない。柳田逮捕の状況をつぶさに見聞し憤激したとしても、それよりおよそ一ケ月後に行われた本件行為を評価するに際し、右の感情を重視することはできない。」を挿入する。

(二)  解雇理由(1)(ロ)について、事実認定の資料に、成立に争いのない乙五二一号証の五および当審証人瀬戸口勝入の証言を付加し、一〇九六頁上段二四行目の次に「万田詰所の保線工は、繰込み後詰所から作業現場まで行くのにモーターカーを使うことが多かつたか、モーターカーは本線ダイヤの会間をぬつて運行するので、万田詰所の場合は万田駅の指令によつて発車することになつていた。右発車時刻は、本線のダイヤや従前の経験から、保線工らにはおよその見当をつけることができたので、繰込みが終ると、全員急いで資材倉庫や工具倉庫から工具類や材料を運んで積込み、モーターカーに乗り込んで発車合図をまつのが常であつた。このような場合保線工らは二回も三回も倉庫から器材を運んで積込んでいるのに、申請人堀はのろのろと一回しか運ばなかつたり、ある時は、他の者が器材を積込みモーターカーに乗つて待機しているのに、申請人堀は繰込み終了後何もせず詰所に入つたまま姿を見せず、発車の際声をかけられようやく出てくるということもあつた。このような器材の積降しについての申請人堀の作業態度は、作業現場に着いて降す場合、作業終了後積込む場合、詰所に帰つて降す場合も同様であつた。

さらに、昭和三四年六月頃、玉名線終点附近の線路敷地の除草作業に桐山、小柳両保線工とともに配役された際、申請人堀は自分だけ除草のしやすい提防ののり面の草を鎌で刈り、道床や側溝など作業のしにくい場所や汚物が流れ込んで汚いところで作業することを嫌うので、これらの作業は小柳らにおいて行わざるをえなかつたので、小柳は巡回に来た瀬戸口係員に対し、右の作業状態を示して、いつもこうゆう風な状態であるとぐちをこぼした。

以上のように、申請人堀は日頃作業意欲がなく、共同作業のときはいつも楽な作業にばかりまわろうとするため、いきおい同僚にその負担がかかり、多くの同僚保線工から不満や苦情があり、申請人堀と一緒の作業に繰込まれることを嫌がる者も出たところから、瀬戸口係員は単独作業があるときはなるべく申請人堀をこれに繰込むよう配慮したが、その場合でも作業の実績かあがらなかつたことは前示のとおりである。そして、万田詰所勤務の保線工一〇名の中で堀のように作業を怠ける者はいなかつた。」を挿入し、一〇九七頁上段一二行目「甲五二一号証の一」の次に「原審および当審における」を挿入し、同一四行目から二五行目までを削除し、同所に「右認定事実について考えるに、(1)のドライアイス持出の件は申請人堀に別段悪意があつたとは認められず、引卒を離れた時間もごくわずかで、それ自体で整理基準該当性を充足するものとは思えず、また該当性を総合判断するうえでも、これを重視するのは相当でない。しかし、入社早々の精神的緊張期に、一人引卒者の指揮から離れて勝手な振舞をしたことを、職場の規律を乱す不真面な行為と評価し、勤務態度不良の徴表が入社当時すでにあらわれていたとする会社の評価も理解し得るところであり、他の勤務状態不良の行為とあいまつて、整理基準該当性を総合判断するための一事情としてこれを掲げたからといつて批難するに当らない。また(4)の赤旗の購入勧誘やビラの配布について、それが現に作業をしている最中ではないにしても、就業時間中に行うことは誠実労働義務に違反し職場の規律を乱す行為というべきであり、休憩中の行為にしても他の保線工の休憩を妨げ、一部の者に不快感を与えたことは否定できず、かかる行為は、休憩後の作業に悪影響をおよぼし、同僚との協調を害し、作業たる保線作業に支障をおよぼすことも考えられるのである。しからば、係員から注意されてからは、就業時間中はもとより、休憩中といえども、その勧誘等について度を越さぬよう配慮すべきであつたのに、これを改めなかつたことは、勤務状態不良判定の一事情として評価さるべきものと解せられる。そして、その余の(2)、(3)、(5)の各行為は作業意欲が乏しいか、行為そのものというべきである。」を挿入する。

(三)  本件解雇の効力について、一〇九七頁下段一行目冒頭より二六行目末尾までを次のとおり改める。

「以上解雇理由は(1)の(イ)、(ロ)の(2)ないし(5)の各事実を総合し、申請人堀が整理基準の勤務状態不良の者に該当し、解雇理由(2)は勤続五年未満の者に該当(但し、この整理基準の事実は解雇理由として特段の意味をもつものでないことは総論において認定したとおりである。)するものとして、本件整理解雇の対象に選定したのは相当であり、別段恣意や不合理があるとは認められない。

ところで、〈証拠〉によると、三池鉱業所における人員整理作業は、昭和三四年八月一一日開かれた副人会議において、本店から示された人員整理の基準(乙第四四号証)について説明されたのが最初で、その際右基準に該当する者の人数を報告するよう各鉱所に指示され、三池港務所においては、調査のうえ、同月一九日頃該当基準別にその人員数が鉱業所人事部に報告されたこと、その後整理基準の修正や解釈適用についての意思統一、各鉱所、各課等の調整などが重ねられ、整理対象者の選定が行われたのであるが、申請人堀は、作業意欲に乏しく万田詰所の鉱員中最も勤務が怠慢である旨報告され、当初より勤務状態不良の整理基準に該当するものとしてリストアップされており、その具体的事由は前示解雇理由(1)(ロ)の(2)の事実や、(4)の事実中同僚の休憩を妨げ苦情が出ていること、(5)の無断早退等の事実であつたことが認められる。しかして、当時港務所における職場秩序がかなりみだれていたことは、本件各申請人の各論において認定した諸事実に鑑み、これを窺うことができるのであるが、職務怠慢者はそれぞれ整理解雇されていることは各該当の各論で判示しているとおりであり、万田詰所においては保線工の勤務状態が全般的にみだれていたとの疎明はなく、その中にあつて一人申請人堀の勤務状態はきわだつて悪く、同僚が一緒に仕事をすることを嫌う状況で、かかる職務怠慢こそが万田詰所の中から唯一人本件整理解雇の対象者に選定された理由と認められるのである。

〈証拠〉によると、申請人堀が青年行動隊の班長や万田詰所の職場委員(本人からやらせて欲しいと頼んで皆が了承したもの)として諸種の会合に出席したり、組合の学習会に出席していたことは認められるが、〈証拠〉によると、港保線分会の中央委員兼職場分会長は申請人古賀義澄であり、万田詰所選出の代議員は川口保広であり、職場における組合活動はこれらの者を中心として行われていたことが認められ、申請人堀が特に活発な組合活動をしていたとの疎明はない(申請人堀の解雇理由には、他の申請人にみられるような生産阻害的職場闘争行為はない。解雇理由(1)の(イ)および(ロ)の(4)の昭和三四年九月三〇日のビラ配布行為を組合活動とみても、前示のごとく既に解雇対象者にリストアップされた後の事柄で追加された解雇理由にすぎない)。

以上のごとく、会社が申請人堀の組合活動を嫌つていたとの疎明はないので、本件解雇をもつて不当労働行為という余地はない。また、申請人堀が日本共産党員として、職場において活動していたことは前示赤旗の購読勧誘からも窺い知られるところであるが、本件解雇は、前示のごとく整理基準に該当するものとしてなされているのであつて、思想、信条を理由になされたものとは到底認められず、また解雇権の乱用ということもできない。

三四 結論

(一)  してみると、申請人前田義則、同堀栄吉の本件仮処分申請は理由がなくこれを却下すべきところ、これを認容した原判決は失当であり、被申請会社の右申請人らに対する各控訴は理由があるから、原判決中の右申請人ら勝訴の部分を取り消し、右申請人らの本件仮処分申請を却下することとする。

(二)  申請人中川末義、同池内長吉、同蓮尾信治郎の本件仮処分申請は理由があるからこれを認容すべく、これと同趣旨の原判決は正当であり、被申請会社の右申請人らに対する本件各控訴は失当であるからこれを棄却することとする。

(三)  その余の申請人らの本件仮処分申請はいずれも理由がなくこれを却下すべきところ、これと同趣旨の原判決は正当であり、右申請人らの本件各控訴は失当であるからこれを棄却する。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(内田八朔 藤島利行 前田一昭)

当事者目録、書証目録、人証目録、訂正一覧表〈省略〉

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